インターチェンジをくぐり、大きなループを抜けて本線に入る。
アクセルを一杯に開くと、タコメーターはレッドゾーンへ向けて跳ね上がった。
シフトアップを繰り返し、スピードメーターの針をフルスケール近くまで引き上げる。
北へ向かうハイウェイには、凍結での滑り止めの縦縞が深く刻まれているが、
水冷2サイクル350ccパラレルツインのエンジンは、モーターの様に滑らかに回った。
スピードを乗せたまま、左右に進路を変えて、まばらな先行車をパスしてゆく。
秋の風に混じって突進して来た何かの虫がシールドで潰れ視界を妨げる。
何気なく左手で拭おうとしたが、手はヘルメットに張り付いて動かない。
空気の存在を思い知らされる。
進路は大きくカーブし先行車が詰まって行く手が遮られた。
アクセルを戻し、前方の安全を確保してから、ラインを読む。
追い越しに備え、クラッチを握って、スロットルを煽りシフトは3速に落としておく。
(ラインが見えた。)
すかさず右にウインカーを出し、軽く右手を押し出す様に力を入れる。
マシンは右に倒れ込み追い越し車線に飛び出す。
すかさず左ウインカーに切り替え、走行車線のセダンを交わしたら走行車線に戻る。
追い越し車線のクーペを交わし、また追い越し車線へ。
心地良いリズムで、先行車を交わしていると、フロント周りを不自然なフラツキが襲った。
速度をセーブして様子を見るが、少しすると大人しくなった。
不安は残るが、原因は分からない。
少しずつアクセルを開けて再びパッシングモードに入る。
幌のかかったトラックを追い越すと前が開けた。先行車は無い。俺の道だ。
長い直線を6速まで全開で加速する。
(これが限界か。)
バックミーラーで後方を確認する為にアクセルを戻した時だった。
さっきのフラツキがまた甦ってきた。また収まるのを期待してハンドルを押さえ込むが、
振られたハンドルがフレームを捩り、車体は高速走行のまま小刻みな蛇行を始めた。
ハンドルは大きく振れた。
(もう抑えきれない、諦めるか)
ハンドルを持った手を離した。
マシンは左側に倒れ、時計と反対方向にゆっくり回転しながら路面を滑って行くのが見えた。
(また修理代がかかっちまうな。)
そんな事を考える時間があったはのは、体が宙を飛んでいたからか。
左肘で受身をして立ち上がろうとしたが、足が路面を捉えられない。
刻まれた縦縞が四つん這いになった足の裏を流れていく。
何かに持ち上げられる様に抵抗で体が引き起こされる。
空を仰いで後ろ向きに一回転し、またブーツの靴底を流れる道路を見る。
もう一回転。三度目に立ち上がった時には速度はかなり落ちていた。
体をひねり、高速道路を2本の足で走って中央分離帯に非難した。
(やっと止まった。)
車体ははるか前方に横たわっていた。
後続していた仲間が、CB750Fを脇に止め、車道に横たわるRZ350を路肩に寄せた。
やって来る車を静止して車道を横切り路肩の縁石に腰掛ける。
今まで抜いて来た車が次々と目の前を走り抜けて行った。
「大丈夫か?死んだかと思ったよ。」
仲間が声をかけた。
「俺もダメかと思った。」
つづく
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